うんと小さい頃、人間せんせいが最初におたふく風邪にかかり、
それを近所の子にうつしてしまったことがあります。
自分が治る頃には、お友達はみんなほっぺが腫れて、
何日かは一人で遊ばなくてはなりませんでした。

一人では、かくれんぼも鬼ごっこもできません。
仕方が無いので、蝋石を握って、道路に絵を描いていました。
道路のキャンバスは、どこまでも続いて、
線路を描いても、お花畑を描いても、どんどん広がっていきます。

下を向いて一心不乱に描いていると、どこからか、音が聞こえてきました。

ちりんちりん。ちゃりんちゃりん。
かりゃんかりゃん。こりんこりん。

ガラスとガラスが触れ合う音で、
高い音、低い音、いろいろな音が混ざり合い、いかにも楽しげな音でした。

顔をあげました。
何も見えませんでしたが、音のする方の角をじっと見つめていました。

そのうち、見えました。
屋台でした。
何かたくさんのお飾りをぶら下げています。
あお、あか、ピンク、みどり、オレンジ、きいろ、みずいろ・・・・。
屋台が揺れるたび、色とりどりのお飾りも揺れ、
そして、にぎやかな音を出すのでした。

わぁ~~~♪

まるで屋台がお飾りをして、おしゃれをしているようでした。
人間せんせいは、蝋石を握ったまま、口を開けたまま、
だんだんに近づいてきて、目の前を通り過ぎるお飾り屋台から、目が離せませんでした。

それは、風鈴を鈴なりにつけたきんぎょやさんでした。
まだ、人間せんせいは、風鈴がなんなのかわからない歳でした。

でも、
目の前を色とりどりの屋台が、スローモーションのように通り過ぎていった、
時間が一瞬止まったような、
そこだけ日常から切り離されたような、
そんなひとこまが、こんな歳になっても、目に焼きついています。

何度か絵に描こうとしましたが、うまくいきません。
脳みそのキャンバス、それが一番いいのかもしれません。

きょう、というのか、昨日というのか、
人間せんせいはひとつ歳を取りました。
あの夏の日からまた一年遠くまで来ました。

おかあさん、暑い夏の日、
私を生んでくれてありがとう。



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2010.08.20 


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